網膜疾患とは
網膜とは、眼球を覆う最も内側にある薄い膜状の組織のことで、視細胞や血管が集中しています。網膜には、角膜から入って水晶体を経た光の情報を電気信号に変え、視神経を通って脳中枢へ信号を伝える役割を担っているのですが、それをカメラに例えるとフィルムの部分になります。この網膜に異常が発生するのが網膜疾患で、代表的な病気として、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性、網膜剥離(裂孔)などがあります。当院では、網膜疾患の病気で、レーザーによる治療が必要となった場合、当院ではレーザー光凝固などの治療を行います。
糖尿病網膜症
糖尿病の発症が引き金となって起きる網膜の障害が糖尿病網膜症です。これは糖尿病が原因で発症する三大合併症(残りの2つは糖尿病腎症、糖尿病神経障害)のひとつで、失明の可能性もある疾患です。
発症のきっかけとなる糖尿病ですが、簡単に言うと慢性的に血糖値が高くなってしまっている状態です。これが長く続くことは血管が傷み続けていることでもあり、様々な血管の病気を招きやすい状態になります。糖尿病を放置し続けると多くは細小血管から障害が起きます。なかでも網膜は多くの細小血管が集中している箇所でもあるので、それらが詰まる、出血する、変形するといった障害が起こりやすいのです。これを糖尿病網膜症と言います。なお、糖尿病を発症したとしても直ちに糖尿病網膜症が起きるわけではありません、ほとんどは数年~10年程の時間を要して発症すると言われています。
同疾患は自覚症状が出にくいのが特徴で、ある程度病気が進行するようになると症状が現れるようになります。具体的には、黄斑部にまで症状が進行すると視力低下、飛蚊症がみられるようになります。このような状態になるとかなり病状が進行しているので、糖尿病患者さんは、目にこれといった異常がないと言う場合でも定期的に眼科で検診を受けることをお勧めします。
治療について
糖尿病網膜症の発症が疑われる場合、視力検査、眼圧検査、蛍光眼底造影検査、細隙灯顕微鏡検査などが行われ、発症が確認されれば治療となります。ただ、その内容は症状の進行度合によってそれぞれ異なります。なお病期とは、初期(単純糖尿病網膜症)・中期(増殖前糖尿病網膜症)・後期(増殖糖尿病網膜症)の三つに分類され、治療法としては、内科的治療、光凝固法(レーザー治療)、硝子体注射、硝子体手術などが行われます。それぞれの治療法については、以下の通りになります。
単純糖尿病網膜症
網膜の細小血管の血液の流れが悪くなって、血管から血液中の成分が漏れやすい状態になっています。小さな眼底出血や白斑は現れますが、自覚症状を感じることはほとんどありません。この場合、糖尿病治療で行う血糖コントロールをしてください。ただ眼科での定期的な経過観察は怠らないでください。眼症状が何もなくても3ヵ月に1回は受診するようにしてください。
増殖前糖尿病網膜症
毛細血管のあらゆる場所で血流の詰まりが現れるようになり、血流不足による酸素・栄養不足に陥った部分(網膜)については、軟性白斑、網膜浮腫などがみられます。ただ、この段階でも自覚症状は出にくく、そのまま放置が続けば増殖糖尿病網膜症に進行します。なので血流不足の網膜に関しては、網膜光凝固術※(レーザー治療)を行います。なお増殖前糖尿病網膜症と診断されたら、1ヵ月に1回程度眼科を受診するようにしてください。
増殖糖尿病網膜症
増殖糖尿病網膜症とは、虚血状態となった網膜から新生血管が生え始めている状態です。この血管が硝子体まで伸びてしまうとそれに引っ張られて出血を起こすことがあります(硝子体出血)。また、新生血管の発生によって増殖膜が発生し、これが網膜を引っ張ると牽引性網膜剥離が起きるなど様々な病態が引き起こされます。
治療に関しては、網膜凝固術によるレーザー治療が行われますが、この治療でも進行を阻止できなければ、硝子体手術(眼内の出血や濁りなどを硝子体と一緒に除去しながら、増殖膜は切り取って新生血管はレーザーで凝固する)を行います。
※網膜光凝固術:病状の進行を抑えるためのレーザー治療のことです。病状の進行具合により、レーザーの照射範囲や照射数は異なります。照射することで正常な網膜が一部犠牲になってしまいますが、全ての網膜を損傷させないために行います。
網膜静脈閉塞症
網膜内の静脈に血栓が形成されるなどして閉塞してしまう疾患が網膜静脈閉塞症です。発症する部位によって診断名が異なり、網膜静脈の根元が閉塞されていれば網膜中心静脈閉塞症で、網膜全体が出血します。また、静脈の分枝に閉塞が起きた場合は網膜静脈分枝閉塞症と診断され、網膜の一部に出血がみられます。なお同疾患の原因として、高血圧、糖尿病、動脈硬化といったような全身疾患を発症している患者さん、緑内障など目の病気の患者さんによく見受けられます。
主な症状としては、黄斑に出血や浮腫が起きると突然の視力低下や、様々な視野障害(黄斑が侵されていない場合)、変視症(物が歪んで見える、曲がって見える など)がみられます。また、硝子体出血や血管新生緑内障を併発する可能性があるので、症状がある程度落ち着いたとしても継続的な管理をしていく必要があります。
治療について
患者さんの訴えや症状などから網膜静脈閉塞症が疑われる場合、問診・視診のほか、眼底検査、蛍光眼底造影検査、光干渉断層計(OCT)検査を行います。治療が必要となると、網膜中心静脈閉塞症は、新生血管や血管新生緑内障の予防と病状の進行を抑えるために網膜全体に網膜光凝固術(レーザー治療)を行います。網膜静脈分枝閉塞症であれば、網膜の新生血管や硝子体出血を予防するのに網膜毛細血管が閉塞している箇所に向けて網膜光凝固による治療を行います。
また網膜浮腫を認める場合には硝子体注射(抗VEGF療法)※を行います。
※抗VEGF薬による硝子体注射とは、「VEGF阻害薬」(抗VEGF薬)を眼球に注射(硝子体注射)する方法で、新生血管を縮小させる効果があると一般的に言われています。
注射は1分程度で終わり、その後は症状悪化時または一定の間隔を開けて注射を打っていきます。
加齢黄斑変性
網膜の中心部分の直径1.5mmほどの範囲を黄斑と言いますが、その部分が主に加齢による変性で様々な症状が起きている状態を加齢黄斑変性と言います。人は加齢が進むと黄斑の細胞の働きが悪くなっていきます。するとしだいに酸素や栄養分の供給が低下していき、老廃物は蓄積されるようになります。
これがだんだん進行し、やがて新生血管が発生するようになると出血などがみられるようになります。その結果、視力低下、歪んで物が見える、見たい所(中心部)が見えないといった症状が現れます。さらに出血や染み出した血液量が増加していくと、視力の低下が著しくなるほか、色の識別も困難になります。なお加齢黄斑変性は、変性のタイプによって滲出型と萎縮型の2つに分類されます。
滲出型と萎縮型
滲出型は、新生血管が黄斑の脈絡膜(網膜より外側にある、血管が豊富な膜)から網膜に向かって伸展するタイプです。新生血管はとても弱く、出血、血液中の水分の染み出しが起きやすくなります。これらによって網膜に浮腫の症状が現れると、そのうち黄斑が障害(激しい視力低下など)を受けるようになります。滲出型は進行が速く、加齢黄斑変性症の患者さんのほとんどがこのタイプです。
また萎縮型は、網膜の細胞と脈絡膜が老化とともにゆっくりと死滅していくので、黄斑の機能は徐々に損なわれていきます。このタイプの治療に関しては、現時点では有効な対策が確立していません。ただ滲出型にいつ移行するかわかりませんので、定期的に眼科を受診し、眼底検査などを行っていきます。ちなみに滲出型のような症状が出るまでには、10~20年程度かかると言われています。
治療について
加齢黄斑変性の診断をつける場合の検査としては、視力検査、眼底検査、アムスラー検査、OCT(光干渉断層計)などを行い、OCTでは新生血管の位置や状態を確認します。その結果から、滲出型の加齢黄斑変性と診断されたら直ちに治療を行います。
治療として、内科的治療(止血薬や網膜に栄養を与えるビタミン)、硝子体注射(抗VEGF療法)※、レーザー光凝固(光感受性物質を静脈内に投与してから、微弱なレーザーを照射して新生血管を焼きつぶす)、外科的治療(脈絡膜新生血管抜去術など)が行われます。
※抗VEGF薬による硝子体注射とは、「VEGF阻害薬」(抗VEGF薬)を眼球に注射(硝子体注射)する方法で、新生血管を縮小させる効果があると一般的に言われています。
注射は1分程度で終わり、その後は症状悪化時または一定の間隔を開けて注射を打っていきます。
網膜剥離(裂孔)
網膜は硝子体と接しているのですが、この硝子体は加齢などの原因によって変性、収縮するようになります。これがきっかけで起きる数々の症状を網膜硝子体疾患と言いますが、網膜剥離(裂孔)もそのうちのひとつです。
なお網膜裂孔とは、網膜に孔(穴)が開いた状態のことを言います。これは、網膜と硝子体が強く癒着していることが原因で発症するもので、硝子体の変性や収縮によって網膜が引っ張られることで裂けてしまい、穴が開いてしまう疾患です。穴が開いたことで液化した硝子体が入り込み、ゆっくりと網膜が剥がれていきます。これが網膜剥離です。初期症状としては、飛蚊症や光視症の症状がみられ、さらに病状が進行すると視野の一部が欠けていることに気づく場合もあります。
治療について
なお網膜裂孔は、網膜剥離へ進行することがあります。そのため網膜裂孔が起きている場合は、網膜剥離を起こさないように、レーザー光凝固を行います。これは主に裂けた部分の周囲にレーザーを照射することで固め、網膜が剥がれないようにする治療になります。
なお、網膜剥離が起きていると、硝子体手術や網膜復位術(バックリング手術)などを行います。硝子体手術では3か所小さな穴を開けてそこから器具を挿入します。そして網膜を引っ張る硝子体を切除して吸引し、眼内を空気に置き換えてから剥がれている網膜の下の液体を吸引します。その後網膜裂孔周囲にレーザー光凝固を行い最後に眼内に特殊なガスやシリコンオイルを注入して網膜を元の位置に戻します。術後にしばらくうつぶせの姿勢が必要になる事があります。また網膜復位術(バックリング手術)は硝子体が萎縮していない年齢が若い方の場合に行います。
眼球の外側から冷凍凝固を行いシリコン製のスポンジで圧迫を加えて眼球をへこませ、剥がれた網膜を元の位置に戻します。